【iPhoneアプリ勉強会/第1回】講師:南雲玲生さん(ユードー)
【iPhoneアプリ勉強会/第1回】講師:南雲玲生さん(ユードー)
AppBankさんが、この6月から毎月シリーズで展開されるアップルストア銀座の講演会「iPhoneアプリ勉強会」に行ってきました(6月19日)。楽しかったです……と書いてしまうと終了なのですが、勉強になりました。さすが勉強会。
すでにTwitter上では時間差実況をやってしまいましたが(Twitterで#appbankを検索してみてください)、あらためまして講師を務められました南雲さんのお話をアップさせていただきたいと思います。ちなみにといいますか、今さら御説明の必要はないかもしれませんが、南雲さんは株式会社ユードーさんの代表取締役にして企画マンであり、サウンドクリエイターでもあります(僕は「7th deadly beats」の音楽が大好きです)。非常に多彩な方なのですが、「これが南雲さんなんだ!」という主張は非常にシンプルに、一本でした。この点はおもしろかったです。これだけいろいろなことをやられているのに、御自分の中ですべてに矛盾がないんでしょうね。クリエイターとはこうあるべきだなと、あらためて思いました次第です、はい。
●村井さん@AppBankによる開会の御挨拶
天気予報は雨だったのですが、見事に晴れて、多くの方々にきていただきました。まずは、ありがとうございます。このiPhoneアプリ勉強会は今回が第1回です。私たちも手探りで準備しているので、至らない部分もあるかとは思いますが、どうか、最後までおつきあいください。
では、会をはじめる前に、ちょっと質問させてください。この会場にいらっしゃっている方の中で、御自分がどれに当てはまるか、挙手をお願いいたします(質問は写真で)……あ、もうあとは聞かなくてもいいくらいですねw 95%くらいの方がiPhoneの開発をされているか、企画されている方なんですね。ありがとうございます。
今日は、南雲さんのお話のあとに質疑応答のお時間を設けます。そこでお聞きになりたいこと、南雲さんへの御質問は、どんどんTwitterでつぶやいてください。ハッシュタグ、 #appbank をつけていただければ、南雲さんのお話の間も、私がすべてチェックします。よろしくお願いします。
●ユードーがやってきたこと
こんにちは、ユードーの南雲です。今日はよろしくお願いします。
僕自身はもともとは家庭用ゲームのサウンドクリエイターだったのですが、System7当時にアップルのラジオCMの音楽のお仕事をやって以来、アップルファンです。なので、アップルの仕事をするということには、違和感はありません。
ユードーは、2008年の夏にiPhoneアプリの開発をはじめました。もちろん、iPhoneアプリを作るなら世界市場をめざすべきなのですが、言語の壁はどうしても大きいと思います。でも、音楽ならいいんじゃないかと考えまして、一か月程度の開発期間でエアロギターを作ったところ、北米でもベスト5に入るヒットになりました。また、そのあとに作ったVOCODER SV-5もヨーロッパ中心にヒットしましたし、
8bitoneは1位にもなりました。これらの経験を通して、ニーズとしてはニッチすぎるアプリの方が、実は市場的には突き抜けることができるんだなということを実感しました。
今、ユードーは自社でリリースするアプリの開発と受託開発を半々くらいで進めているのですが、ピアノマンも200万DLを達成しましたし、受託の方では太鼓の達人がランキング1位を獲得しました。それを含めると、合計で5本のランキング1位タイトルを出したことになります。
●マニアックでクレイジー、世界でたった1つのアプリを短期間で作る
あらためて説明する必要もないくらい、先日のWWDCでもいくつか数字が明らかになりましたが、iPhone市場のスピードはものすごく速いですから、今ヒットしているアプリも、どんどん古くなるわけです。そんな市場でヒット作を出そうと思ったら、独自のアイディアを試すか、あるいはしっかりマーケティング調査をして、次ぎにくるトレンドを読んで作るか、いずれかの方法しかないだろうと思うのですが、ユードーはまちがいなく前者です。どんどんオリジナルのアイディアを出しています。去年は「1日1企画立てよう」ということをやっていたくらいです。
先ほどもお話ししましたが、実感として、世界でただ1つ、マニアックでクレイジーなものをリリースした方が、結果としては広がっていくんだなと思っています。その点を意識しながら、1日1企画というか、僕が最低限の仕様書を作って、そこから作業がはじまって、スタッフみんなの発案や発言をまとめていく中で、最終的な仕様が決まる。そういう企画の練り込み方をしています。
企画も開発もスピーディに進めていますが、デザインは非常に重視しています。どういうことかというと、デザインはユーザーへのおもてなしだと考えています。デザインの差が、そのままアプリの差になるんじゃないかと思うくらいです。また、デザインのセンス、クオリティ、よしあしはデザイナーでないとわからない、判断できないのではないかとも考えています。ユードーには専任のデザイナーが三人いて、彼らがアイコンやロゴ等、アプリに必要なデザインを作り上げています。
ちなみにこれが、ユードーの開発風景です。若干、演出は入っていますがw
僕は、新規で前例のない企画ほど、開発期間は絞るべきだと考えています。最短で1週間です。1、2週間というところでしょうか。そういうスピードで作っているうちに仕様が削れてきて、シンプルなアプリになります。そうやって小さく生んで、ユーザーのみなさんの意見に沿うかたちでアップデートしていって、大きく育てることを考えています。そうした方が、喜ばれますしねw
また、アプリの価格も重要な要素ですが、有料版、無料版を別々に出すという方法は、どうでしょうか? アプリは1つに集約すべきだと思います。ユードーでも価格キャンペーンをやったことはありますが、それは告知を誘って長く使っていただこうと考えたからです。
まもなくiOS4、iPhone 4がリリースされますが、これには日本の開発者もついていくべきです。特にGame Center、iAdには注力すべきです。ユーザーのクチコミや様々な連携から、ゲームアプリへの誘導ができます。
iAdでは、リッチな広告コンテンツが実現します。これはソーシャルな要素と広告の複合型のようなものだと捉えています。iAdによって、無料アプリは、爆発的に増えるんじゃないかなと思います。
●質疑応答
ーーゲーム業界からiPhone業界に入った際に、一番の違いだと思われたことはなんですか? また、一番、戸惑われたことはなんでしょうか?
南雲:20代の自分、ゲームメーカーに入ったころの自分を思い出しましたw 今、家庭用ゲームの開発は分業化が進んでいて、巨大なプロジェクトになると自分が何を作っているのかがわかりにくいんです。また、売れるか売れないかというマーケティングや営業の話もあって、なにかアイディアを思いついたからといって、自由にゲームを作ることはできません。iPhoneアプリの開発をはじめて、そうした閉塞感からぬけ出すことができました。
村井:南雲さんは、いろんなお仕事をされていますが、ときどき、山ごもりをされるとお聞きしたことがあるんですけど。
南雲:はい、しますね、山ごもりw 社長、プランナー、サウンドクリエイター。これが僕の仕事なのですが、やはり集中する時間を作りたいので、山ごもりをして、集中して音楽を作ったり、企画を考えたりすることがあるんです。以前、一週間、会社を休んだことがあったのですが、その時はスマートフォンの未来をずっと自分なりに考えてみて、企画につなげたこともあります。
村井:他のデベロッパーさんを意識されることはありますか?
南雲:スクウェア・エニックスさんは高価格帯ですが、いいアプリを作って売れていますね。自信があるんでしょうね。そういう姿勢には憧れがあります。インディーズのアプリには、企画はいいのにデザインが残念なものがありますね。あと、作り込みが足りない部分もあったり……。今後は、ということですけど、資金の面も含めてユードーがサポートしていきたいと思います。デザインだけでも、ユードーがお手伝いするということもあると思います。
村井:それ、すごいお話じゃないですか。どうやって応募すればいいんですか? 公式サイトからメールでいいですか?
南雲:ツイッターでつぶやいてくださいw
ーー小さく生んで大きく育てるというお話がありましたが、それができたと思われるアプリはどれですか? また、そのアプリの開発に入った時に、いけるぞ! と実感された出来事はありましたでしょうか?
南雲:LiveLink3Gは、プログラマーと「今年は音楽アプリをいっぱいやったから、来年は映像をやりたいね」と話していたら、三時間くらいで仕様のメインの部分ができてきたんです。それを仕上げてリリースしたのですが、そこから力を入れていくかどうかは、ユーザーのレビューや声で決めていきます。もう少し説明すると、僕たちはレビューからユーザーさんのストレスを読み取って改善しようとしているんです。たとえばピアノマンの場合は「知ってる曲でプレイしたい」という声がすごく大きかったので、JASRACさんとの交渉を進めて実現することができました。
南雲:「このアプリいけるぞ!」と思うのは、リリースされて、AppBankさんや他のブログなんかを通してみなさんの声が聞こえてきてからですね。
ーーダウンロード数はいきなりどん! といくものが多いのでしょうか? それともロングヒットになることが多いのでしょうか? もしくはこれをやったからダウンロード数が伸びたというようなことはありましたか?
南雲:ほとんどのアプリがどん! といきますね。これはツイッターが一番速いと思っているのですが、アプリ名で検索してみて、どれくらいの時間でいくつくらいつぶやかれているか、それを数えてみると、だいたいの感覚がわかります。よく言われるバイラルとは、手法のことではなく、いかに人が人に伝えたくなるアプリを作るかということだと考えています。たとえばLiveLink3Gもランキング1位になりましたが、これはリリースから数日間、ほぼ1分に一回、誰かがLiveLink3Gについてつぶやいていた結果だと思います。
ーー国内市場、海外市場、それぞれでなにか違うアプローチをとられていますか?
南雲:ユードーには専任のプロモーションスタッフがいて、毎日、海外向けにリリースを流して、コンタクトをとっています。海外のニュースメディア、ブログメディアとも、毎日やりとりしています。作ることと同じくらい、知ってもらうことに力を入れています。ただ一点、注意しなければいけないのはアプリのリリース前にプロモーションをしてはいけないということです。以前、8bitoneの発売前にアメリカのギズモードにとりあげてもらって、ものすごく大きな話題になったのですが、残念ながらそれがリリース前で……という失敗をしたことがありました。
ーーこれから開発をはじめる人へ、アドバイスはありますか?
南雲:そうですね、思いついたアイディアは、すぐメモをとっていますね。企画ということでいえば、毎日の生活からいろんなことを考え続けてほしいですね。僕なんか永遠の厨二病で、その結果、友だちも減らしたりしましたけど、それだけわがままに、いろんなことを考えてきました。それと、僕なりに意識してやっていることがあって、すべてにおいて最適化された行動をとらないということをやってみています。たとえば特急に乗っていくような路線でも、あえて鈍行に乗っていったりします。また、あえて古いPCを使ってみて、ストレスを感じるという方法もあるでしょう。そうやって「こうだったらいいのにな」と思うことが、アイディアになって、企画書を書くことができたりするんです。
南雲:ユードーでは今、若い企画者を育てています。今は僕一人しかいないのですが、一日一企画ということをやっていたこともあって、100くらいはストックがあります。たとえば最近考えたアイディアのヒントですが、付箋ってありますよね? あれ、自分の机、机の上にあるものしか貼れないことにストレスを感じるんです。会社でも家でもトイレでも、どこでも貼れたらいいと思いません? このアイディア、ユードーで作るかどうか、わかりませんけど。
ーービジネスユースでiPadは成功すると思いますか?
南雲:成功すると思います。居酒屋でありますよね、あぁいうの。お店の人が持っていたり。あれ、いいなと感じる以上、業務用ツールとしてiPadは成功すると思います。
ーーユーザーからの声で、一番うれしかったのはどんなものでしたか?
南雲:生活が改善されたとおっしゃっていただくのが一番うれしいです。LiveLink3Gのおかげで、娘の写真を母親に見せることができたという話を聞いたことがあるのですが、よかったです、はい。(会場からの質問に答えて)そうですね、作りたいと思うものと、作ってあげたいと思うものの比重は、半々くらいです。
●村井さん@AppBankから次回予告!
本日のイベントはこれで終了です。御清聴、ありがとうございました。最後に告知です。次回は、もうあと20日ほどですが、7月9日19時から、同じここ、アップルストア銀座で、i文庫HDが今、大評判のnagisaworksの浅田さんをお迎えします。その次は、8月6日、同じく19時から、こちら、アップルストア銀座に物書堂の廣瀬さんをお迎えしてお送りします。物書堂さんは、TV-CMでもおなじみの大辞林を作られた会社さんです。
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